VIXとVVIXのダイバージェンスは相場の波乱を予測するか
2017/01/24
VIXとVVIX。
原則的に同じ方向に動くこのふたつの指数ですが、稀に反対方向に向かうことがあります。
VIXが下がっている中VVIXが上昇するVIXのポジティブ・ダイバージェンスは、VIX上昇の前触れ、SP500の暴落シグナルだと言われます。
はい。「言われ」ています。
実際にそうなるのかどうか、過去のチャートから検証してみました。
Contents
2007年から2016年のVIXとVVIXの日足チャート
まず、2007年以降のVIXとVVIXの日足を確認します。
四角で囲った箇所が、ダイバージェンスの見られるところです。
2016年11月まで
7月に綺麗なダイバージェンスが出ましたが…
2015年
10月にダイバージェンスらしきものがあります。
確かにその後、VIXが多少上がってはいます。
でも、ふたつの指数が少し違った動きになりはじめたのが10月12日、VIXが上がっているのは、11月の12日~13日あたりです。
その間一ヶ月、VIX指数は11月11日16.06が13日に20.08と地味な上げでした。
2014年
これもダイバージェンスと言えるかどうか、ちょっと疑問ではあるのですが、VIXは下がってもVVIXは横這いを続けて、ふたつの指数の動き方が違うので取り上げてみます。
ここは、VIXがVVIXに合わせるようにぐっと上がりました。
2013年
2013年3月、ここはくっきりとダイバージェンスしています。
やっぱり上がったのは一ヶ月後ですが…
7月8月の2回は、空振りですね。
2012年
3月、見るからに違った動きをする時期がありましたが、すぐ後に今度はネガティブ・ダイバージェンスのように見える箇所があります。
その更に後にVIXに上がられても、なんとも…
8月には、先にVVIXだけが上昇して、そのままの高さで横這いしているところへVIXが追いついたふうになりますが、上げ幅は小さいです。
VIX指数がこれくらい動くのは、そう珍しいことでもないので、ここも微妙です。
2011年
うーん…
2010年
4月の初めに小さなダイバージェンスがあります。
その後VVIXがVIXをリードする形で二指数とも上がっていきます。
ここは、キレイにきまりました。
12月にもダイバージェンスが出ていますが、チャートが切れてしまうので続きは上の2011年を見て…見なくていいや。
2009年
1月のこれもダイバージェンス認定は迷うところです。
元々2009年の初めは、まだまだリーマン・ショックの続きの期間なので、ボラティリティ指数は、上に下に大きく動がちです。
5月に入ると、それまで大きく下がっていたVVIXが、一人で俄然張り切りはじめます。
その後上がりましたね!VVIXが、ですが。
大暴落の後遺症、相場の過敏さが抜けない中でのVVIXの狂想曲という風情が…
2008年
2008年の場合、年後半の上昇が大きすぎるので、どうしても前半のチャートは横這いに見えてしまいます。
5月から7月の3ヶ月間を拡大してみました。
VIX指数は、5月16日(ダイバージェンスの終点)の16.3から7月15日の28.54まで上がっています。
途中でかなりアップダウンしているので、ダイバージェンスの示唆が有効であるとするのを最初のピークアウト(5月下旬)までと見ると、ここもたいしたことはないのですが、7月半ばまでを含めて見るのであれば、まずまずです。
年後半に入って、8月にもダイバージェンスが出現します。
リーマン・ブラザーズの破綻は、9月15日なので、やはりこの時も一ヶ月近くの期間がありますが、VIX指数は9月の初めから上がり始めています。
ダイバージェンスと言うよりも、2007年からマーケットに横たわっていた不安を、ふたつの指数がうまく表現しているように見えます。
2007年
3月に小さな逆行が見られますが、この時はダメでした。
サブプライム問題が表面化する中、10月に現れるダイバージェンスは的中しました。
VIXが上がり始めたとき、もうVVIXは下落に向かっていますが、VIXは、10月31日の18.53から11月12日の30.09まで上昇しました。
以上が、これまでのVIXとVVIXのダイバージェンスとその後の値動き検証結果です。
…微妙すぎる。見て損したと思っちゃいましたか?
でも過度な悲観は過度な楽観と同様に損の元です。
ダイバージェンスのシグナルはどの程度の精度なのか知っておくことは、きっと意味があると思います。
次に、VIXーVVIXダイバージェンスについて考察してみます。
VIXとVVIXがダイバージェンスする時 マーケットに起きていること
何が買われ何が売られているのか
VIX指数は、S&Pオプションのアットザマネー(ATM)、アウトオブザマネー(OTM)が買われると上がります。
VVIXは、VIXオプションのATM、OTMが買われると上がります。
ふたつの指数が逆の方向に向かうのは、どちらかが買われているのにもう一方は売られているときです。
VIXが下げてVVIXが上がるポジティブ・ダイバージェンスの裏側では、S&Pオプションが売られ、VIXオプションが買われています。
どちらもリスクヘッジに使われるものですが、SP500のプットよりもVIXのコールの方がハイリスク・ハイリターン傾向があるので、より大きい危機が来ると予想する場合に適しています。
ダイバージェンスはなぜ当たらないのか
時に不可解なVIXコールの買い
暴落に対するヘッジ効果の高いVIXオプションが買われていると聞くと、一大事が起きると想像しがちです。
でもチャートを見るとそうでもありません。
年に何回か「VIXのコールに謎の大量買い」というニュースが流れて、SNSが騒然とすることがありますが、その後何かが起きた試しがないのと似ています。
最近は、この突発的VIXコール買いは、ただのギャンブラーだろうというコンセンサスが出来つつあるようです。
私もそう思います。
”VIXが下げてVVIXが上がるポジティブ・ダイバージェンスの裏側では、
S&Pオプションが売られ、VIXオプションが買われている”
この売り買いは、同じ人がやっているのかも知れません。
そうではないにしろ、VIXとVVIXのダイバージェンスは、自然現象として起こり得る範囲のことで、その後VIXが上がることはあっても、元来VIXはいつ上がってもおかしくないものです。
にもかかわらず、この現象が人を惹きつけるのは、ロマンをかきたてられる何かがあるからでしょう。
注:言っているのは「VIXオプションの大量買いが必ずしも暴落の予兆になるわけではない」ということで、「VIXオプションの大量買いが出ても暴落はしない」ということではありません。
暴落は、いつでも起こりえます。ただ時々出るこの突発買いを過度に気にする必要なないでしょうということです。
VIX派生商品のパラドックス
下のグラフは、2006年から2014年までのVIXオプションの売買高一日平均です。
誕生以来順調に売買高を伸ばしているVIXオプションですが、この人気がVIX指数の動きに影響をもたらします。
副作用と言ってもいいかもしれません。
個人的に「VIX派生商品のパラドックス」と呼んでいますが…
どういうことかと言いますと…
暴落を見越してVIXオプションのコールを持っていた人は、その後相場が下落してもSP500のプットを買う必要がありません。
暴落時のリターンのいいVIXオプションを下げの序盤で手離して、もう価格の上がっているS&Pプットを買うのは、賢いトレードとは言えないでしょう。
そしてS&Pオプションが買われなければ、VIX指数は上がりません。
つまり、VIXオプションの売れ行きがVIXの上昇を妨げるということです。
VVIXが上がっているとき、その分だけVIXは上がりにくくなっているのです。
この「VIX派生商品のパラドックス」は、VXXなどにもかかってきます。
原則的にVIXの上げに期待して買うVXXですが、VXXを持っていればそれ自体が暴落対策になり、荒れ相場になってもS&Pのオプションを買う必要がなくなります。
VIX先物にはじまったVIXトレードは、さまざまなETFを生み、今はVIXウィークリーオプションまで取引できます。
便利になってはいるのですが、こうした商品にはVIXの上昇力をそぐジレンマがあります。
今のところはまだ、下落ヘッジとして最もオーソドックスなのは、やはりS&Pオプションであり(下図参照)、大きな下げに対しては、S&Pのプットが大量に買われてちゃんとVIXが上がっているので、それほど問題でもないのですが、とりあえず「VVIXオプション」は作らないで欲しいなと。
下は、S&Pオプションの売買高です。S&Pオプションがすたれているわけではありません。
ただ、以前であればこちらに入っていたはずの注文の一部が、他の商品に流れているということです。
※出来高が上がることでVIXが上がるのではないです。
言っているのは、相場急落時のS&Pプットへのパニック的な買いが、他のVIX商品の存在によって弱まるということです。